【5分で理解】ADP雇用統計と雇用統計の違い|見るべき項目も紹介

アメリカ経済の7割を支えるのは個人消費であり、その動向を左右する最大の要因が「雇用」です。
毎月発表される雇用に関するデータのうち、特に注目されるのがADP雇用統計と米国雇用統計。
どちらも「雇用の現状」を示す重要な指標ですが、実は公表される内容やデータ元などが大きく異なります。
この記事では、ADP雇用統計と米国雇用統計の違いについてわかりやすく解説するとともに、どちらを見ればいいのか、または実践的な使い方に至るまで以下の項目で詳しく解説します。
- ADP雇用統計と雇用統計の5つの違い
- ADP雇用統計は雇用統計と違いがあり、あてにならないのか
- ADP雇用統計と雇用統計の違いを踏まえた使い分け
- Fintokeiではファンダメンタルズ分析に役立つツールを提供
- まとめ
ADP雇用統計と雇用統計の5つの違い
米国のADP雇用統計と雇用統計(NFP:Non-Farm Payrolls)の概要について、以下の表にまとめました。
比較項目 | ADP雇用統計 | 雇用統計(NFP) |
公表主体 | ADP社(民間企業) | 米国労働省 労働統計局(BLS) |
公表頻度・時期 | 毎月1回(原則第1水曜日) | 毎月1回(原則第1金曜日) |
対象者 | 米国民間部門のみ | 米国非農業部門の雇用全体(自営業や農業労働者は家計調査のみ) |
データソース | ADP社の給与支払い記録データ(約50万社・2,500万人分) | BLSによる大規模調査データ(事業所調査:約14万社・政府機関、家計調査:約6万世帯) |
主な公表内容 | ・雇用者増減数(業種別や地域別、企業規模別) ・賃金の中央値伸び率※失業率の発表はなし | ・非農業部門の雇用増減 ・民間、政府、産業別の雇用増減 ・平均時給・失業率・労働参加率など多岐にわたる |
市場での位置付け | 民間雇用の先行指標として注目(NFPの予測材料になるが完全な予測ではない) | 公式の雇用指標として最重視。FRBの金融政策や市場に直接影響する |
どちらもアメリカの雇用動向を把握するための重要な経済指標ですが、以下5つの違いがあることを抑えておきましょう。
- 公表主体
- 公表日
- 対象者の範囲とデータの質
- 雇用者の定義と集計方法
- 公表内容
公表主体
ADP雇用統計を発表しているのは、アメリカの民間企業Automatic Data Processing(ADP)社です。
同社は給与計算や人事管理を手がける世界最大級のアウトソーシング企業で、約50万社・2,500万人分の給与データを保有しています。
この実データを匿名化・集計・分析し、民間雇用の増減や賃金動向を推計したものがADP雇用統計です。
一方で、米国雇用統計(NFP)は政府機関である 米労働省 労働統計局(Bureau of Labor Statistics:BLS) が公表します。
BLSは労働・賃金・物価などを網羅的に統計化する公的機関であることもあり、そのBLSが発表する雇用統計はFRBの金融政策判断にも直結する「公式経済指標」として信頼性の高いデータと位置づけられています。
公表日
ADP雇用統計と米国雇用統計はどちらも毎月1回公表されますが、タイミングに2営業日のずれがあります。
ADP雇用統計は、毎月第1水曜日の日本時間21時15分(冬時間の場合は22時15分)に公表されます。
一方で米国雇用統計は、毎月第1金曜日の日本時間21時30分(冬時間の場合は22時30分)に公表されます。
ADP雇用統計は米国雇用統計よりも先に公表されるので、雇用動向を把握するための先行指標として位置づけられています。
対象者の範囲とデータの質
ADP雇用統計は、ADP社が保有する民間企業の給与支払いデータをもとに作成されています。
したがって、対象は民間部門(民間企業や家計など)のみで、政府職員や自営業者は含まれません。
またADP雇用統計のデータは全米の雇用者の約5分の1をカバーするとされているものの、給与計算を外注できる大企業や中堅企業に偏りやすいという指摘もあります。
一方で米国雇用統計は、毎月実施される企業や政府機関を含めた約12万拠点を対象にした事業所調査(CES)と、約6万世帯に聞き取りを行う家計調査(CPS)から成り立っています。
事業所調査に関しては、ADP雇用統計と同様に給与簿などの記録を基にしたデータをもとに作成されます。
しかし家計調査に関しては、「電話または訪問による聞き取り調査」という回答者の主観に基づく記録をもとに作成をしているため事業所調査よりも高めに出ることがしばしばあります。

出典:U.S. Bureau of Labor Statistics
雇用者の定義と集計方法
米国雇用統計とADP雇用統計では、雇用者の定義と集計方法が異なります。
まず両者のデータ集計期間はどちらも「毎月12日を含む週」を基準にしているという点で同じですが、雇用者の定義とカウント方法は異なります。
ADP雇用統計は、「12日を含む週に給与を受け取った民間従業員」を雇用者として集計します。
一方で米国雇用統計の事業所調査は、企業からの報告を基に「12日を含む週に給与支払いを受けた雇用契約」を集計します。
つまり1人が複数の職を持つ場合、米国雇用統計ではそれぞれ別の雇用者数(2つ職を持っていれば2人)としてカウントされやすくなる点には注意が必要です。
公表内容
ADP雇用統計で発表されるのは、主に以下の2つです。ADPは給与実績ベースの統計であるため、給与が発生しない失業者や求職者、労働力人口に関する内容は把握できません。
- 民間雇用者数の増減(セクター別雇用動向・企業規模別・地域別)
- 在職継続者(job stayers)と転職者(job changers)の賃金上昇率
一方で米国雇用統計では、雇用者数や賃金動向の変化に加えて、失業率や労働参加率、平均労働時間など幅広い雇用動向を把握することができます。
米国雇用統計で発表内容される内容の一例は、以下の通りです。
- 非農業部門雇用者数の月次変化
- 平均時給
- 失業率
- 労働参加率
- 平均労働時間
- 時間外労働時間
- 複数職保有者(Multiple jobholders)の人数および割合
ADP雇用統計は雇用統計と違いがあり、あてにならないのか
ADP雇用統計と米国雇用統計には細かな違いが多数あり、乖離することは珍しくありません。
例えば、対象範囲の違いにより政府部門(例:教育、公務、郵政など)で雇用変動が大きく動いた月には、米国雇用統計との数値差が拡大します。
しかし乖離があるからといってADP雇用統計が無意味というわけではありません。
2017年〜2025年にかけてADP雇用統計と米国雇用統計の雇用者数を比較してみると、単月の乖離はあるものの概ね同じ方向感を示していることが分かります。

出典:FRED
加えて、調査票ベースの推計である米国雇用統計と違って、給与支払いのデータベースで作成されるADP雇用統計のPay Insights(賃金インサイト)は賃金動向を把握する上で非常に役立ちます。
ADP雇用統計はあてにならないと切り捨てるのではなく、米国雇用統計と組み合わせて動向を見極めていくことが重要なのです。
ADP雇用統計と雇用統計の違いを踏まえた使い分け
ADP雇用統計と米国雇用統計の違いを踏まえて、それぞれどのような使い方をしたらよいのか実例を踏まえてみていきましょう。
ADP雇用統計で注目すべきポイント
ADP雇用統計で注目すべきポイントは、以下の2つです。
- 前月比ベースの雇用者数変化(Jobs Report)
- 在職者・転職者の賃金上昇率(Pay Insights)
両者はADP社公式サイトのトップページにある「National Employment Report」から確認することができます。

出典:ADP Research
SNSなどでは単月の速報値を確認することができますが、上記のレポートでは時系列の推移状況をグラフで確認することができる点が特徴です。
例えば、2025年以降の雇用者数推移を見てみると、7月頃からやや軟調していることが読み取れます。慣れてきたら、「Industry」項目から産業別の推移状況も確認してみるとよいでしょう。

出典:ADP Research
次に賃金動向も確認しておきましょう。Pay Insightsでは在職者(Job Stayer)と転職者(Job Changer)の賃金上昇率を確認することができます。

出典:ADP Research
両者がそろって上昇している場合は、企業は離職防止のため昇給、かつ転職市場でも賃金競争が激化、つまりインフレ圧力が強く利上げ観測が高まりやすいと判断できます。
また転職者だけが上昇している場合は人手不足による雇用安定性の低下リスク、在職者だけが上昇している場合は労働移動が停滞している(慎重姿勢)サインなどが読み取れます。
2025年10月時点だと転職者の賃金上昇率が鈍化しているので、経済見通しの悪化により企業が採用意欲を控えているなどの可能性が考えられます。
雇用統計で注目すべきポイント
米国雇用統計で注目すべきポイントは、以下の3つです。
- 非農業部門雇用者数の変化
- 失業率
- 平均時給・労働参加率
非農業部門雇用者数の変化や失業率、平均時給に関しては、BLS公式サイトに掲載されるレポートから詳細を確認することもできますが、SNSなどの速報値での確認でも十分でしょう。
ただし非農業部門雇用者数に関しては、前月分の改定値にも注目しましょう。
普段は予想値と結果の乖離で相場が変動するケースも多いのですが、改定で大幅な修正があれば改定値を起点とした指標結果の変動にも注目する必要があります。
また見落としがちなのが「労働参加率」です。

出典:U.S. Bureau of Labor Statistics
労働参加率とは「16歳以上の人口のうち、働いている人または働く意思を持って求職している人の割合」であり、賃金上昇の背景を判断するために役立ちます。
例えば労働参加率が低下しているのに賃金が上昇している場合、人手不足による賃金上昇と読み取れます。
2025年10月時点だと労働参加率が上昇、平均賃金が横這いなので、雇用市場は穏やかに推移していると判断できます。
ただADP雇用統計の求人需要減少も加味すると、雇用市場の過熱を冷ますのに成功したか、それとも冷え込みの始まりか判断の瀬戸際に立たされているのかもしれません。
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まとめ
この記事では、ADP雇用統計と米国雇用統計(NFP)の違いや、それぞれの活用方法について詳しく解説しました。
ADP雇用統計は速報性が高く、最新の雇用動向や賃金トレンドを把握するのに最適な指標です。
一方、米国雇用統計は経済全体を反映する信頼性の高い公的データとして、FRBの政策判断や長期的な景気分析の基準になります。
両者を組み合わせて活用すれば、雇用市場のトレンド転換の兆候をより早く察知し、相場変動に柔軟に対応する力が身につきます。
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